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デジタル時代の消費者セグメント
日本総合研究所は、生活者の「デジタル化」の現状を把握し、生活者セグメントごとの適切なコミュニケーションの在り方を提言するため、「デジタル生活者調査」を実施した。 デジタル生活者調査では、パーソナル・インターネット端末、モバイル決済、VRデバイスなどの「デジタル・インフラストラクチャー」の浸透度や、デジタルデバイス・テクノロジーに対する行動様式、価値観を分析した。また、これらに加えて、特定テーマとして「エネルギー」「ヘルスケア」「教育」にフォーカスし、それぞれの領域において生活者のデジタル化がどの程度浸透しているかをあわせて分析している。 デジタル時代の消費者セグメント デジタル製品・サービスの価値観を基に分析・分類した結果(*1)、生活者の価値観は6つのセグメントに分類することができる。 デジタル製品・サービスに進取的であり、高デジタル・リテラシー層である「デジタル・イノベーター層」と、デジタル・リテラシーでイノベーター層に次ぐ「デジタル・アダプター層」を、デジタル先進層とした。 デジタル・イノベーター層の特徴 一方、非先進層として、デジタル・リテラシーは高くないものの金銭的メリットや日々のちょっとした幸せにつながるデジタル製品・サービスを取り入れる「コンビニライフ層」、セキュリティを意識せずテレビ等を見てからフォローする「デジタル・フォロワー層」、デジタル・リテラシーが特に低く周囲の人が製品・サービスを使い始めてからようやく活用を(仕方なく)検討しはじめる「アナログライフ層」と定義した。 アナログ・ライフ層の特徴 デジタル消費者調査結果 デジタル時代において、生活者のデジタル製品・サービスの需要状況・浸透状況はどのようになっているだろうか。企業は、彼らとどのようなコミュニケーションを取るべきだろうか。各セグメントの実態を紐解いていくことで、新たな生活者接点の持ち方を提言していきたい。 第2回:デジタル・イノベーター層第3回:デジタル・アダプター層第4回:コンビニライフ層第5回:デジタル・フォロワー層第6回:アナログライフ層第7回:エネルギー×デジタル第8回:ヘルスケア×デジタル第9回:教育×デジタル *1:デジタル製品・サービスに対する意識・行動の相違をベースに、生活者のデジタル化に関する7つの価値観(因子)を抽出し、クラスタリングを実施することで導出。 デジタル生活者調査の概要 調査手法:インターネット調査調査対象:20-69歳の携帯電話ユーザー10,000人デジタル・イノベーター645人、デジタル・アダプター2,218人、コンビニライフ2,162人、デジタル・フォロワー2,466人、アナログライフ887人、無頓着1,022人、生活者セグメントの分析対象外600人調査期間:2019年8月2日(金)~8月6日(火)
HRテクノロジーは人事の未来を変えるのか?
近年、わが国においてもHRテクノロジー(略称HRテック)という用語が浸透してきた。HRテックとは、「HR:人的資源」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語で、「テクノロジーを用いて、HR領域の効率化および高度化を実現する手法」と定義できる。HR領域の業務には、採用、配置・異動、評価、育成、リテンションおよび各種労務管理などがあるが、これらの領域において、テクノロジーを用いて効率化・高度化を実現する手法がHRテックである。 HRテックの具体的なサービスには、労務/給与管理システム・採用管理システム・タレントマネジメントシステムなどが挙げられる。HRテックの普及が先行したのは米国であるが、すでに日本でも数多くのサービスが市場に出てきている。そのため、何らかのサービスを導入済み、もしくは導入を検討している組織も多いだろう。それでは、組織がHRテックを導入することで、人事の姿はどのように変わっていくのだろうか。 HRテック導入によりもたらされる効果 組織がHRテックを導入することで期待される効果は主に以下の2つである。 ① HR領域の既存業務の効率化(=今までやっていた人事業務がスピーディーに進む) ② HR 領域において最適な人事施策を立案し、人材マネジメントの高度化を図る (=テクノロジーの力を借りて、組織内の人事課題解決に向けた施策を適時適切に 立案・実行していく) ①はHRテックを「導入するだけ」で享受することができる効果である。例えば、給与計算や勤怠管理において、サービス導入により各種申請・精算プロセスが自動化され、煩雑な手続きがなくなるのは分かりやすい効果の一つである。他部署と比較しても、人事部は旧式のオペレーションが残りがちな部署であり、非効率な業務が多く残っていることも多い。そうした組織においては、こうした業務効率化の効果を意図してHRテックを導入することもあるだろう。しかし、世の中の多くの人事部がHRテックに望んでいる効果は①ではなく、むしろ②の方ではないだろうか。HRテックの導入により、人事データを効率的に収集・分析できるようになり、その結果「ハイパフォーマーの計画的な育成」「離職者および採用コストの減少」など、従来は前に進めることが出来なかった人事施策を確実に立案して実行できるようになる、というものである。こうした人事施策を実行することで、事業遂行に寄与するような人材マネジメントを実行していくのである。実際に、筆者がHRテックを導入したいと考えている企業の方とディスカッションをしていても、前述のような効果を期待して導入を考えていることが多い。②の効果についてもう少し詳しく見ていこう。人事上の課題解決に向けた人事施策を策定する際、「人事上の課題を特定→課題解明に向けたデータの選定・収集→収集したデータの分析→分析結果を基にした人事施策の策定」というプロセスを回していく必要がある。HRテックは、前述のプロセスを確実かつ早く回していくことに寄与するツールとして位置づけられる。具体的には、HRテック導入に伴い、以下の事項が実行可能になることで、前述のプロセスを確実かつ早く回すことが可能になってくる。(ⅰ)導入前よりも幅広いデータを扱うことができる。 ⇒システムの機能を用いて従業員から新規のデータ(ex. エンゲージメント、キャリア 意向等)を収集したり、従来別形式で保持されていたデータを集約化したりすること が可能になるため、より幅広いデータを扱うことが可能になる。 (ⅱ)導入前よりも必要なデータの収集を迅速に行うことができる。 ⇒システム内に既にデータが格納されていたり、システム内でサーベイを実施したり することも可能であるため、必要なデータを迅速に収集できる。(ⅲ)導入前よりも高度な分析を行うことができる。 ⇒変数と分析手法を選択するだけで必要な分析を実施できるだけでなく、多変量解析・ 機械学習などの高度な分析も比較的容易に行うことができる。 上記の事項が実行可能になると、幅広いデータの参照や高度な分析を通じて、導入前よりも課題の実態や背景をより正確に捉えられるようになる。それが、結果として精度の高い人事施策の立案・実行にもつながるのである。 また、人事施策の立案・実行までに要する時間がより短くなるのもポイントの一つである。組織が直面している人事上の喫緊の課題に対して、年単位の時間をかけて対処しているようでは、検討中に課題が深刻化したり、原因が移り変わったりして、結果として的外れな人事施策を立案することにもなりかねない。HRテックを用いて、必要なデータ収集・分析を迅速に行うことが出来ると、タイムリーに課題の原因を突き止めて、的確な人事施策の立案に移ることが可能になる。 「管理部隊」の人事から「企画部隊」の人事へ 前述のHRテック導入により得られる効果、特に②の効果によって、人事はどのような姿に変化していくのだろうか。筆者は、HRテック導入により、人事は「管理部隊」から「企画部隊」へと変化することが期待できると考える。 日本の組織の人事部は、給与計算・勤怠管理・社員からの問い合わせ対応など、いわゆる管理業務を中心に従事する傾向が強い。組織運営を行っていく上で、こうした業務が大事である一方で、人事部のより重要な役割として「組織の戦略が確実に遂行されるように人材マネジメントの観点からサポートすること」(=戦略人事)が挙げられる。組織が戦略を遂行しようとする際、「どのような人材をどの程度配置するのが最適か分からない」「優秀な人材の離職が相次いでいて人材が不足している」といった人材面の課題は常に生じてくる。こうした課題に対して、解決に向けた適切な人事施策を経営陣に企画・提案し、着実に実行していく役割が昨今の人事部には求められているのである。前述の通り、HRテック導入により、少なくとも導入前よりは人事上の課題およびその原因を正確に捉え、人事施策に繋げていくというアクションを取りやすくなってくるのは事実である。そのため、人事部がHRテックを上手く活用していけば、組織の中で「管理部隊」から「企画部隊」へ役割転換を果たすことが可能になってくると期待される。 HRテックを「活かす組織」の重要性 ただし、一点注意が必要なのは、HRテックを導入したからといって、自動的に「企画部隊」の人事になれるわけではないという点だ。つまり、前述の「人事上の課題を特定→課題解明に向けたデータの選定・収集→収集したデータの分析→分析結果を基にした人事施策の策定」のプロセスを、HRテックが自動的に回してくれるということは無いのである。 例えば、ハイパフォーマーの探索・育成の場合、「そもそも自社のハイパフォーマーはどのような指標で定義すべきなのか」、「その指標を捉えるためのデータはどこに存在しているのか」といった基本的な議論を人事部主導で実施した上で、必要なデータをシステムに投入するという所からスタートする。ハイパフォーマーの定義や各種データを収集できる体制が整った段階で、システムを用いて統計解析を実施し、組織内のハイパフォーマーが探索できるようになるわけだ。「今後ハイパフォーマーをどのように育成していくか」という点についても、システムは「組織内の誰がハイパフォーマーの条件に該当しているか」は示してくれるが、育成の方針自体は皆で議論・検討していくことが必要である。 要するに、HRテックを活用しながら、前述のプロセスを回していくことを主導する人材・組織体制が不可欠なのである。(図ⅰ)逆に、そうした人材・組織体制が全くない状態でHRテックを導入してしまうと、「HRテックが全く使われないまま放置される」というもったいない事態にもなりかねない。また、今後HRテックが技術的に進歩し、前述のプロセスを自動的に回すことが可能になったとしても、実際の人事上の意思決定に人が関与しないと従業員が納得する人材マネジメントを遂行するのは難しいだろう。そのため、今後どのようなHRテックを組織に導入するにしても、HRテックの活用を主導する人材・組織体制は必要になってくる。 確かに、HRテックの導入は、人事部が「企画部隊」の人事へと変わる大きなチャンスである。ただし、そのためには、導入と並行してHRテックを実際の人事に活かすための人材・組織体制を整備していくことも大事になってくることに注意しておく必要がある。
人と都市との対話によるまちづくり(前編)
Sidewalk LabsのQuayside再開発事業からの撤退 2020年5月7日、2017年に発表されてからスマートシティの「壮大な実験」と呼ばれ、大きな期待を持たれていたGoogleの兄弟会社であるSidewalk LabsがトロントのQuayside地区再開発事業からの撤退を発表した。このニュースはすぐに世界に駆け巡り、スマートシティに興味を持ち、またスマートシティ事業に関わっている多くの人々に衝撃を与えた。 Why we’re no longer pursuing the Quayside project — and what’s next for Sidewalk Labs 今回、Sidewalk LabsがQuayside地区再開発事業から撤退したのは、再開発地区に公共交通機関の乗り入れのために州政府に数百万ドルの投入を求める提案をしたが、州政府がそれを拒否したことで、Sidewalk Labsは自社だけでプロジェクトを完成させることは不可能であるという結論に至ったからである。(*1)そもそもSidewalk Labsが不動産開発事業のノウハウを有していなかったため、世界的なコロナの影響による不動産価値の減少に対して有効な打ち手を持てなかったことなどが考えられている。このように、その撤退の理由に関して、様々な憶測が流れているが、世界的に注目されていた本事業の終焉はスマートシティの分野に対して大きな影響を与えるものであることは間違いないと言えよう。 本稿では、Sidewalk LabsのQuayside再開発事業からの撤退という世界的なニュースを受けて、改めてスマートシティを捉え直したいと考えており、スマートシティの今までの軌跡と、これまでの事業の問題点、これからのあるべき方向性について論じていきたいと思う 。 スマートシティの通った道 オバマ大統領のグリーン・ニューディール政策を背景に、2009年に多額の投資を行うと発表して話題になったスマートグリッド、そして、その流れから2010年頃には、都市を丸ごとスマート化する「Smart City」というキーワードが注目されはじめ、その後、多くの国々で大小さまざまなスマートシティの実証実験が行われた。日本においても2010年度に経済産業省「次世代エネルギー・社会システム実証事業」、内閣府「環境未来都市構想」、2012年度に総務省「ICTスマートタウン構想」事業が開始されるなど、政府が積極的にスマートシティに関わり、スマートシティプロジェクトは官民双方で国家規模の取り組みとして一世を風靡した。筆者はこの時期に外資SIerにてスマートシティの事業開発に従事していたが、当時は現在の「GAFA」や「MaaS」のように、ネットニュースでは日々「スマートシティ」の文字が溢れ、SIerやコンサルティング企業などのホームページでは専用ページが設けられて、その実績が喧伝されていた。そのブームにおける一つの区切りは「次世代エネルギー・社会システム実証事業」の終了が見えた2014年頃のように思われる。その頃からスマートシティという言葉よりもIoTやAIといった言葉をビジネスの中で使用する頻度が多くなった気がする。スマートシティ事業の現場に関わっていた者として当時を振り返ると、「スマートシティ」という言葉が収束した理由としては、①政府の補助金や企業の研究開発費が一時的に注入された実証実験が終了した後に、それらの資金に頼らないでもスマートシティを継続させていくビジネスモデルやサービサーが存在しなかったこと、②スマートシティのために構築したサービス、データ連携基盤に対して運用費をかけてまで利用しようというユーザーニーズが少なかった、③メーカーのプロダクトアウトな提案が多く、市民の認知が進まなかった、ことなどが考えられ、技術的な側面よりもビジネス面の課題によって社会実装が進まなかったといえる。 昨今のスマートシティの動向と特徴 次に筆者が「スマートシティ」という言葉を聞いたのは2016年、CEATEC JAPANでの海外スタートアップ企業のプレゼンテーションであった。すでに日本では「スマートシティ」という言葉自体をあまり聞かなくなった中で、米国、インド、フランスなどのスタートアップ企業が自社のサービス、製品がいかにスマートシティに貢献するかをアピールしていたのが印象に残っている。スマートシティブームの牽引役であった米国では、オバマ大統領が2015年に1億6,000万米ドル強を投入し、地域社会主導で都市の課題解決を促す「Smart City Initiative」を立ち上げた。2016年には、新たに8000万米ドル強が追加投資され、参加する都市およびコミュニティの数も2倍以上の70都市とするなどさらに拡充された。また、米運輸省は、2015年に都市独自のモビリティ分野の課題解決アイデアを都市間で競う「Smart City Challenge」と呼ばれるコンペを実施し、最も優秀な提案をしたコロンバス市には、そのアイデアの実装のために4,000万米ドルの助成金を提供した。(*2)翻って日本に目線を移しても、2016年度に総務省が「データ利活用型スマートシティの基本構想」を取りまとめ、それを受けて2017年度には「データ利活用型スマートシティ推進事業」が開始され、2018年6月には国土交通省から「スマートシティの実現に向けて」の中間とりまとめが発表された。一つの収束がきたと筆者が思っていたスマートシティではあったが、このような米国や日本の状況を見ても、世界においてはその流れは着実に進んでいたと言える。2017年にGoogleの兄弟会社Sidewalk Labsが、カナダの首都トロントQuayside地区の再開発を行うと発表されてから、スマートシティという言葉は再びメディアで大きく取り上げられるようになった。「Googleのまちづくり参入」というインパクトのあるニュースによって、日本においてもそのコンセプトは日増しに注目を集め、CES 2020でトヨタ自動車が静岡県裾野市にWoven Cityを開発すると発表した今日において、国内では「第二のスマートシティブーム」が到来したと感じている。 最近のスマートシティの特徴としては、Google、トヨタといった民間企業が主導をしていることと、各社の戦略に基づいて、データ活用、モビリティの色合いが強いことが挙げられる。先ほどスマートシティという言葉が収束した理由として、ビジネスモデルやサービサーが存在しなかったことを挙げたが、データやモビリティといった幅広い業界に関係するテーマが、スマートシティの中心に躍り出たことは、今後のスマートシティの実装にとってビジネス領域の裾野が広がるという点で好材料であると言えよう。 過去に計画されたスマートシティの現状と課題 将来的にスマートシティを成功に導くために、一つ振り返らなければならないのが、今まで計画されてきたスマートシティプロジェクトのその後である。その歴史を振り返ると当初は夢のように語られていた世界が現時点で全てがうまく進んでいる訳ではないということが見て取れる。 2010年頃のスマートシティ界隈で大きな夢として語られていた「マスダールシティ」は、UAEのアブダビ近郊でゼロ・エミッションを目指し、人口5万人規模の都市開発を行うという壮大な計画であった。この壮大な計画にはリーマンショックが大きく影響し、その計画の発表から10年が経った現在でも、わずか5パーセントしか完成しておらず、「ゼロ・カーボン」ではなく「ロー・カーボン」に計画変更をしたり、目玉であった個人用高速輸送システムも大量輸送機関に修正したりするなど、その都市計画は大きく矮小化されている傾向にある。(*3) 韓国政府による「ユビキタスシティ」プロジェクトの後押しを受けて仁川で建設計画が進んだ「松島(ソンド)新都市」では、当初は大規模・グリーンフィールドのプロジェクトで世間の耳目を集めたが、10年を超える長期間の都市建設は、現時点では中途半端な状況で止まってしまっている。長期のスマートシティ建設に対して資金回収のめどが立たない、他地域への横展開の可能性が見えないことから、都市建設に関わるコンソーシアム参加企業が離脱したことがその一つの要因と言われている。中途半端に開発された地域は、現在はソウルで不動産を取得できない低~中間層の、単なるベッドタウンになる可能性がある。(*4) 先ほど取り上げたSidewalk LabsによるQuayside再開発に関しても、資金面の領域以外で、今までも多くの懸念点が指摘されてきた。個人情報の取得、管理、活用、情報漏えい等に対する不信感、個人のプライバシーの権利の侵害への懸念、絶えず監視が続くという住民の不安などを払しょくできず、一部では住民訴訟に発展した。また、Sidewalk Labsという営利企業が「まち」を運営することに対して、そこに住む様々な属性の人々に対して、公平なサービスを提供できるかどうか、営利企業1社の意見によりまちづくりの全てを進めて良いのかという公平性・平等性への懸念も根強くあった。(*5) 目指すべきスマートシティの姿と考え方 現代は「都市化の時代」とも言われているように、2018年現在、世界人口の55%が都市部に暮らしている。その割合は2050年には68%になると国際連合は予測しており(*6)、交通渋滞やゴミ廃棄、水質汚染など都市部ならではの課題が多々発生してくることは容易に想定される。これらの都市課題を解決するために、日々新たに生み出されるデジタル技術を活用し、スマートシティを目指すことは必然的な流れであろう。しかし、先述したとおり、スマートシティが社会に実装されることには多くの乗り越えるべき課題があり、そしてリアルに住む人々の幸せに必ずしも直結しない可能性もある。ISOの規格の一つである「ISO/IEC 30182:2017 Smart city concept model. Guidance for establishing a model for a data interoperability」では、スマートシティは以下のように定義されている。“2.14 smart city Effective integration of physical, digital and human systems in the built environment to deliver a sustainable, prosperous and inclusivefuture for its citizens”(*7)ここで特徴的なのがデジタル以上に、「ひと」にフォーカスが当たっていることである。デジタル化による都市部の課題解決、そのためのスマートシティの構築はもちろん重要ではあるが、それはあくまでそこに住む人々の幸せを実現するための一手段であり、都市のスマート化自体が目的ではない。リアルの世界に生きる人々の幸せを実現するためには、まずは人々にとっての幸せとは何か、そのためには何が一番の解決策になるのかを、デジタルファーストに陥ることなく常に問い続けることが重要であろう。その上で必要なことは、人と都市との対話ではないか。これは単に都市の各種データを連携させて新サービスを住民に提供するという一方向でのやりとりではなく、人と都市の間での相互フィードバックを通じて、人々の幸せを目指して成長し続ける都市を目指すことである。スマートシティには多くの資金がかかり、それ故に資金面で折り合いがつかなくなったり、作り上げようとしている都市の価値が上がらなかったりで、その計画が途中で頓挫する可能性があることは、過去のスマートシティの事例や、Sidewalk LabsのQuayside撤退からも見て取れる。資金を集めるため、都市の価値を向上させるためには、ひとえに人々にとって、その都市が住みやすく、魅力的に思われることが重要であり、都市が住民の幸せやニーズを不断に汲み取っていくことが重要になってくる。果たして、最新のデジタル技術を多くの人々は求めているのか… 奇しくも、昨今のコロナウィルスの流行に伴い、在宅での勤務、消費活動が推奨される中で、人々の生活におけるデジタルに対するニーズは飛躍的に高まってきている。それらの人々のニーズを吸い上げて、スマートシティがさらに進化し、より人々の幸せに寄与した存在になること、スマートシティを超えた「Beyond Smart City」を目指すためには、先述したように、人と都市の対話が重要なカギとなってくる。そしてその対話を実現するために、今後より重要になってくるのは人と都市が対話を行うためのインターフェースの構築にあると個人的な仮説を持っている。対話のインターフェースはどのようなものになるか、また、その可能性については、本稿の後編にて、引き続き詳述していきたい。 *1:Aarian Marshall.「グーグルがトロントで夢見た「未来都市」の挫折が意味すること」.WIRED.2018年5月9日 *2:国立研究開発法人 情報通信研究機構 (北米連携センター).「米国におけるスマートシティに関する 研究開発等の動向」.2017年3月 *3:Laura Mallonee.「フォトストーリー:アラブの砂漠に建つはずだったユートピア「マスダール・シティ」」.WIRED.2016年7月17日 *4:Record China.「10年以上も焼け野原状態…韓国の未来都市計画の現状とは=韓国ネット「誰のための開発?」「事業性がないから」」. 2018年3月6日 *5:ISO.” ISO/IEC 30182:2017 Smart city concept model — Guidance for establishing a model for data interoperability」.2017年 *6:United Nations.” 2018 Revision of World Urbanization Prospects” .2018年 *7:Susan Crawford.「グーグルはトロントにとって、本当に「よき管理人」なのか──未来都市が生み出す「情報の価値」の真実」.WIRED.2018年3月1日
ポストコロナのDX推進
外出自粛要請で業務のデジタル化不足が露見 新型コロナウイルス感染症緊急事態宣言による外出自粛要請で、多くの企業がテレワークを実施した。緊急避難的にテレワークを実施したために、各企業ではデジタル化の遅れによる業務の障害が顕在化した。 本来、企業がテレワークの実施で狙う効果としては、業務の生産性向上、ワークライフバランスの向上、オフィスなどのコスト削減、事業継続性の確保などがあり、これまで各企業はそのバランスを意識しながら取り組んで来た。今回の対応では、否応なく事業継続性の確保を最優先にテレワークを実施したため、様々な歪みが出ており、結果、不要不急の外出自粛の最中、オフィスへの出勤を余儀なくされているケースが多発した。また事業継続性の観点でも、そもそも顧客往訪など営業活動ができず、事業そのものが停止しているケースも散見された。 このような状況を踏まえ、各社のテレワークの成否は、ビジネス全体のデジタル化の推進状況が大きく影響していると考えられる。多くの企業はテレワークを、あくまでオフィスワークの一部機能の代替ととらえ、必要な場合にはオフィスに出社するといった前提で仕組みを構築してきている。もちろんウェブ会議等のツール類も含めた必要最低限のICT環境は整えているので、平時のテレワークでは特に問題がなかった。 一方で、今回のようにほぼ全従業員がテレワークを行うような前提で検討を進めてきた企業は多くなかったため、改めて各社の業務のデジタル化の推進状況が、その成否を分けた形になった。 【対社内の業務障害(一例)】・稟議など社内手続は印鑑文化なので押印のために出社・経費精算の領収書を提出するために出社 【対社外の業務障害(一例)】・顧客宛の請求書、契約書等の押印・発送のために出社・顧客往訪ができず営業活動が停止 これらの事象はDXの基盤とも言うべき業務のデジタル化ができていない企業で発生することが多い。特に対社内の原因の大半は、企業の業務全体が旧来の紙文化・印鑑文化に縛られており、デジタル化が遅れていることに起因する。 DXの第一歩として業務のデジタル化は必須 対社内のデジタル化の対応は比較的取り組みやすい。基本となるのはペーパーレスと押印レスである。電子決裁を基本とする社内のワークフロー基盤の活用が肝となる。この取り組みは何より、企業文化そのものの見直しに他ならない。トップ自らが社内業務のデジタル化に取り組むという姿勢が何より重要である。 電子決裁は業務の迅速化や効率向上、品質向上、統制強化など、様々な効果が期待される。またペーパーレスの実現では印刷コストや書類の保管コストの削減にもつながる。 対社外の対応について、請求書など取引証票のペーパーレス化では、これまでも電子帳簿保存法の継続的な改正など企業が取り扱う取引証票類の電子化は推進されてきた。最近では2023年から消費税の仕入税額控除の方式として導入予定のインボイス方式(適格請求書等保存方式)に向け、請求書の電子化検討も本格的に始まりつつある。併せて企業間取引の電子化の進展を見据え、制度整備、運用開始を目指す、eシール(Electronic seal:企業の角印の電子版に相当)の検討も進んでいる。 営業活動の面ではプロセスの再構築とデジタル化の推進により、従来のフィールドセールス中心の活動からインサイドセールスへのシフトなどが考えられる。新規営業については、これまでもインサイドセールスの強みを比較的発揮してきた領域である。自社のウェブや他の営業チャネル等からの問い合わせに対して、一旦、インサイドセールスがアポ取りまで行い、可能性の高い顧客を往訪する営業マンに引き継ぐといったケースである。そのプロセス自体を標準化してデジタル化することが必要である。 一方でインサイドセールスがあまり導入されてこなかった、既存顧客の深耕やルート営業であっても、今後の対面営業が減る可能性が高いポストコロナ時代では、メールやウェブ会議ツール、ウェブコンテンツ等を用いたインサイドセールスが、効率的で効果的な手段となり得る。従来のフィールドセールス、インサイドセールスといった、明確な分類ではなく、従来型のフィールドセールスができない場合に、自社ではどのような営業活動が効率的で高い効果が見込めるかを考える必要がある。それらの取り組みは、単なる電子化ではなく、営業プロセスの抜本的な見直しにより業務の再構築とデジタル化の推進が必要になる。またそこで扱う顧客や取引先との各種対外書面においても、単なる書面の電子化に留まらず、プロセス自体のデジタル化の推進が必要になる。 このように個々のデジタル化の仕組みは揃いつつあり、各企業は優先順位付けを行った取り組みが重要になる。 データ活用はDX推進の大きなステップ 業務のデジタル化が進むと、社内に蓄積されたデータを活用しようとする文化が徐々に醸成される。データを活用したビジネス変革が求められる中で重要なのが、データ基盤である。データが作り出されるシステムがバラバラだと、統合した際に、コード体系が異なったり、同じ顧客や製品でもコードが異なったりと、活用には様々な障害が起こる。社内に蓄積されたデータを活用可能な状態に如何にスムーズに整備できるかがDXの実現に向けた次の大きなステップになる。 ビジネス変革を起こすようなデータ活用まで到達するには、社内で誰もがデータを活用できる環境が重要である。一部のデータ活用に長けた社員だけでなく、多くの社員が自然にデータ活用できる環境を構築し、データに基づいた判断を行う社内文化を構築することが、新たなビジネス価値の向上につながる。 データ活用はDXの推進に不可欠であり、そのデータがいつまでも社内のレガシーシステム内でバラバラの管理になっていることは、DXを阻む大きな要因となる。 必要なのは取り組みのメリハリ DXに向けた取り組みでは、DXとLX(Legacy Transformation)のバランスが重要である。経団連が発表した、「Digital Transformation (DX)~価値の協創で未来をひらく~」の中では、「DX を推進するための LX(Legacy Transformation)の同時並行での遂行が、多くの企業で急務である。」と記載している。LXとは、経済産業省の DX レポートが「2025 年の崖」と言っている、企業に根差す旧来からの基幹システム(レガシーシステム)からの脱却である。 ここで注意したいのは、レガシーシステムの問題点である。「レガシーシステム=“悪”」と単純に考えることは正しくない。老朽化したシステムが悪いのではなく、複雑化・ブラックボックス化し、変化に柔軟かつスピーディに対応できないシステムが悪いということを理解すべきである。もちろんシステムの複雑化には複雑な業務にも原因があり、その業務を見直さない限り、最新技術でシステム構築しても、結局、複雑なシステムの焼き直しになり、いつまでたってもLXすら実現できないことになる。 重要なのはシステムが担う業務の見極めである。事業方針としてどの事業や業務に付加価値や変化を求めるかで、システムの見直し範囲と方針は決まってくる。変化を求める業務ではその変化のスピードに耐え得るような業務システムを個別に構築し、普遍的な業務では極力業務を標準化して徹底的に市販のパッケージシステムを利用することでデジタル化を促進するなど、取り組みにはメリハリが重要である。 そのような取り組みが業務のデジタル化とデータ基盤の構築を実現可能にし、レガシーシステムからの真の脱却を実現してDXを加速させる。
人と都市との対話によるまちづくり(後編)
はじめに 前編では、スマートシティのこれまでの政策的な動向や、今まで世界中で計画されてきたスマートシティプロジェクトの問題点を整理するとともに、人と都市の対話の重要性、そしてこの後編に繋がる、対話のためのインターフェースの必要性を述べてきた。今回の後編においては、未来(とは言っても、そこまで遠くない未来)の話として、人と都市が対話するためのインターフェースについて、筆者の仮説を述べていきたい。 インターフェースを構成する諸要素 人と都市が対話するためのインターフェースを考える上で、まずはどのデバイスを活用するかということを考える必要がある。米国の民間調査会社Pew Research Centerが2018年春に実施した携帯電話関連の世界規模での調査結果報告書「Smartphone Ownership Is Growing Rapidly Around the World, but Not Always Equally」(※1)によると、2018年春段階で、Advanced economics(=先進国)におけるスマートフォンの普及率は、韓国の95%を筆頭に中央値でも76%が所有をしており、日本においては66%が所有しているという試算がでている。またEmerging economics(=発展途上国)においても南アフリカでは60%が普及しており、中央値としても45%が所有している。このようにスマートフォンはすでに多くの人々の生活に密着しており、今後、スマートウォッチなどの新しいデバイスが普及する可能性はあるものの、現時点でスマートフォンは都市と人とをつなぐインターフェースの手段となるポテンシャルを大きく有していると言えよう。次に、スマートフォンというデバイスを活用した際に、インターネットブラウザを活用したウェブサービスなのか、スマートフォンにダウンロードされたアプリサービスなのかも一つの論点と考えられる。ウェブサービスは構築、改修が比較的容易であり、またQRなどを活用するとすぐに起動が可能というメリットがある半面、ブラウザを閉じてしまうと再度アクセスが必要になるという欠点がある。逆にアプリサービスの場合、スマートフォンにダウンロードしてしまえばワンクリックで起動が出来、恒常的に使えるというメリットがある反面、ウェブサービスに比較すると構築、改修に費用がかかる、スマートフォンにダウンロードしてもらうのにコストがかかるというデメリットもある。 都市と人をつなぐインターフェースを構築する場合は、これらのサービスのメリット/デメリットから選定していく必要があるが、都市と恒常的にコミュニケーションを取っていくと考えた際は、アプリサービスの方がその用途に適しているのではないかと筆者は考えている。 アプリサービスの課題 都市と人をつなぐインターフェースをスマートフォンのアプリサービスとした場合、先述したように、開発保守・改修の費用面やダウンロードをしてもらうためのコストの面で、依然として課題は残る。また、ダウンロードしたアプリを日々の生活の中で活用してもらうためにも、アプリ自体の魅力を高める必要性もあるだろう。 マクロミル社が2018年3月に公表した「スマートフォン利用者にきく、 アプリの利用状況調査」(※2)では、スマートフォン利用者1,224名のアプリ平均ダウンロード数は23個で、数多く市場に出回るアプリの中で、23個のアプリの一つに選ばれるのは容易でないことは想像に難くない。またアプリのダウンロードを頻度という観点から見ても、1週間以内にアプリを一度もダウンロードしなかった割合は66.4%で、3カ月以内で見ても35.8%が一つもアプリをダウンロードしていない結果になっている。 また、次にアプリの日々の利用という観点から分析をしてみると、一日に使用したアプリ数は4個以内で51.4%、一週間以内に使用したアプリ数を見てもその数は0~4個で34.9%に上り、多くの人々にとって日々使うアプリ数は4個以内になる傾向にある。このようにユーザーにアプリをダウンロードしてもらい、日々使用してもらうには大きな障壁があることが言える。 これらに加えて、アプリ自体を保守運用していくためのビジネスモデルをどのように構築するかという点も課題として挙げられる。有料アプリのダウンロード率は20%ほどであり、また、アプリの月平均課金額をみても、77.8%が課金をしたことがないという回答をしており、この数字を見ると個人課金型のビジネスモデルには限界があるように思える。 上記で見てきたマクロミル社の調査から、アプリのダウンロードや日々の利用回数などを考えると、新たなアプリを開発して展開し、ビジネスモデルとして継続させていくことが果たして投資対効果の観点から最善の策なのかということが疑問として出てくる。このような状況から、すでにダウンロードされており、日々活用されているアプリの価値が相対的に高くなることが考えられる。 スーパーアプリの出現 2020年3月17日にヤフーを傘下に持つZホールディングス(以下、ZHD)がLINEとの経営統合を承認する議案を可決した。経営統合が完了すると、ZHDがヤフーとLINEをそれぞれ傘下に収める形となる。これはキャッシュレス市場で国内シェアトップのヤフー「PayPay」と、これまた国内最大級のチャットアプリ「LINE」の実質的な合併であり、その相乗効果に大きな注目が集まった。このニュースの際に頻出したキーワードとして「スーパーアプリ」という言葉がある。スーパーアプリとは厳密な定義はまだなされていないが、それらには以下のような特徴がある。【スーパーアプリの特徴】1.配車サービス(Go-jek、Grab)、決済(AliPay)、チャットツール(WeChat)といった人々の生活に密着したアプリがベースになっている。2.それぞれアプリのベースとなるサービス(決済、配車など)を超えて、一つのアプリの中で、多種多様な生活サービスを提供している。3.いわゆる欧米や日本といったインフラが整った地域ではなく、道路、電気など基礎インフラが未整備な地域において先端技術が導入されるリープフロッグ(カエル跳び)現象が見て取れる現に、先ほど述べたPayPayやLINEにしても、すでに決済やメッセージ機能だけではなく、PayPayに関しては配車やEC、フリマといった機能をすでに実装しており、LINEにおいてもライフスタイル、ショッピング、旅行/グルメ、フィナンシャルといった機能がミニアプリとして実装されている。このようなスーパーアプリではあるが、ここ数カ月、Googleアラートでニュース数をチェックしていてもその注目度は日々上がり続けており、その動きはまだまだとどまることを知らない。生活への浸透という面でも、LINEがコロナ検査のために厚生労働省のアンケートのツールになったことからも、今後はより行政分野にも展開されていくことが想定される。 モビリティ関連アプリのスーパーアプリ化 これらのスーパーアプリの動向の中で最近特に大きな動きを見せているのがモビリティ分野であり、MaaS(Mobility as a Service)アプリの存在である。既存アプリが配車やルート検索、マップといったモビリティに関する機能を拡充するのと裏表の関係で、日々生み出されるMaaSアプリもモビリティだけではなく、他のサービス分野を取り込み始めている。前者に関しては、先ほど述べたPayPayの配車機能との連携などがあるが、後者では2020年3月にリリースされた東京メトロのMaaSアプリ「my! 東京MaaS」が、NTTドコモのdヘルスケアや、東京海上日動の「あるく保険」との連携を検討するなど、モビリティのみではなく、人々の生活に関わるあらゆる領域へとそのサービスを拡張している。これらの傾向は海外においても同様であり、先に述べたGo-jek、Grabだけではなく、シンガポールで鉄道やバスなどを運営するSMRTコーポレーションが開発したモビリティXのMaaSアプリ「Zipster」においても、Go-jek、Grabといった交通パートナーによる割引クーポンの他、AXAの損害保険の提供、不動産会社との連携を行っている。このようにMaaSアプリにおいては、毎日のように、他分野への進出や、新たな業界との提携のニュースが流れてきている。なお、2020年7月4日の日本経済新聞社の記事によるとGo-jek、Grabともに、新型コロナウィルスの影響で非中核事業から撤退するとの報道があり、今後の動向が注目されている。(※3) なぜ、このようにモビリティ分野のアプリがスーパーアプリの道を進むのか、これに関して筆者は、アプリとの接点の多さが、その一つの要因であると考える。先ほど参照したマクロミル社の調査結果を見ると、よく使うアプリのうち、「SNS・コミュニケーション」の45.8%を筆頭に「ゲーム」、「ニュース」、「ショッピング・クーポン」、「趣味・音楽」が続き、その後に「マップ・ナビ」が21.7%となっている。また、海外においては自家用車の普及率が低く、また公共交通が整備されていないがために、移動にタクシーを活用する機会が多く、その分だけタクシーの配車というモビリティに対するニーズが高いこともその要因の一つであると考えられる。このように「マップ・ナビ」や、「配車」といったモビリティ関係のアプリが人々の生活に大きく入り込んでいるがゆえに、これらのアプリがその他の生活サービスを提供するプラットフォームになったと考えられる。 デファクト争い~GoogleとLINE/PayPay/my route連合 これらのスーパーアプリ、MaaSアプリの動きを考える上で無視できない存在は、Googleが開発、運営している「Google Map」である。2020年にGoogle Mapは15周年を迎え、「Googleマップのこれからの15 年を考える」という記事を2020年2月7日に発表している。この文章の中で、Googleは「異なる移動手段をつなげて到着時間を表示することで、よりシームレスなユーザー体験を得られるようにすることが、Google マップの次の課題のひとつ」 (同上)と述べており、「次の15年の地図」として、「物理的な世界に存在するあらゆるものを収集し、人々が世界を探索して、物事をこなす手助けをするための情報」(同上)を提供することを宣言している。インターネットの歴史を振り返ると、デバイス、OS、検索エンジン、メール・メッセージ、SNS、動画配信など、多くのサービスが生まれては競争の末、いくつかのサービスへと収斂していった。そしてそれらの中でもGoogleはSNSなど一部のサービスを除いて、大きな成果を残してきた。スーパーアプリやMaaSアプリは現在、多くの企業が参入し、世界的な競争に入っているが、その中でGoogleアカウントによる認証とGoogle Payという決済機能、そしてGoogle Mapというマップ・ナビ機能を有する巨人Googleの動向は見逃すことが出来ず、また今後ますますその存在感を増していくものと考えられる。このようなGoogle動きに対し、国内で注目したいのは、LINE、PayPay、そして国内MaaSアプリの先導者であるトヨタのmy routeの連携である。ZHDの親会社のソフトバンクはトヨタとともに新たなモビリティサービスを目指す「MONET Technologies株式会社」に共同出資しており、ソフトバンク(LINE、PayPay)、トヨタ(my route)を中心としたスーパーアプリの実現もあり得ない話ではない。 人と都市の対話のためのインターフェース~スーパーアプリの可能性~ 本稿では前編、後編にわたって、スマートシティと、人と都市をつなぐインターフェースの可能性としてのスーパーアプリについて考察してきたが、現在のスマートシティはIoT機器から集められたセンサー情報をデータ連携基盤につなぎ、それらのデータを活用して新たなサービスをユーザーに提供するという比較的「大がかりで重い」領域で語られることが多く、またそこで提供されるサービスもどちらかというと、「都市から人へ」と一方向に提供されるもののように見える。しかし、より細かくこれらを見ていくと、サービスを構築するためのベースとなるデータ連携基盤や新規サービスの開発、保守・運用の主体は誰になるのか、費用は誰が負担をするのか、それらの費用をかけてまでユーザーが求めるサービスを提供することは可能なのかという疑問が残る。しかし、より細かくこれらを見ていくと、サービスを構築するためのベースとなるデータ連携基盤や新規サービスの開発、保守・運用の主体は誰になるのか、費用は誰が負担をするのか、それらの費用をかけてまでユーザーが求めるサービスを提供することは可能なのかという疑問が残る。個人的な見解としては、データ基盤をベースとしたスマートシティよりも、スマートフォンを活用したスーパーアプリのように「すでにユーザーに受け入れられており、かつ新たなユーザーニーズに対して機動性が高い」サービスを人々が自主的に使いこなすことが、人と都市との対話によるまちづくりに繋がるものと考える。それぞれの個人が自身にあったツールやサービスを選び、街に関わっていく、それこそが新たな人と都市の関係を生み出し、新たなまちづくりに繋がっていくのではないか。 新たにブームが到来したスマートシティ、これを機会にスマートシティを超えたスマートシティ、「ビヨンド スマートシティ」とも言える世界をそろそろ考えるべき段階に来ているのではないだろうか。 (※1)Pew Research Center.” Smartphone Ownership Is Growing Rapidly Around the World, but Not Always Equally” .2019年 (※2) 株式会社マクロミル.「スマートフォン利用者にきく、 アプリの利用状況調査」.2018年3月 (※3)日本経済新聞.「2強グラブ・ゴジェック スーパーアプリ戦略岐路」.2018年7月4日
未来を考えるコミュニティへの誘い
非連続な未来が次々に現実に 映画「バックトゥーザ―フューチャー」をご覧になったことはあるだろうか?1989年のパートⅡである。2015年の世界として、会話する服、スマートグラス、3D映画、電気自動車のような無音で走行する自動車が描かれていた。しかし、常時接続できるようなインターネット環境・すべてのモノがつながるような世界や、人工知能と対話するような世界は描かれてはいなかった。 2020年を迎えた今、デジタル・テクノロジーの社会への導入が、かつて想像しえなかった勢いで進んでいる。デジタル関連のスタートアップは市場を席捲しているし、従来型の企業はデジタル時代に合わせた事業変革に追われている。 変革に追われる企業はとりわけ、ゴールの見えない戦いを強いられている。特に、デジタル技術を導入することで、自分たちがどのような社会をつくりあげることができるのか、明確にイメージできている企業は少ない。今、あらためてビジョンを創りたい、という相談が増えているように、企業は羅針盤を求めているという印象を我々は持っている。 未来の絵姿は、変革への原動力 では、デジタル・テクノロジーが導入された未来の社会は、どのような社会になるのだろうか?半年先から1年程度の先の未来であれば、技術発展と社会変化の動向を丁寧に追えば、ある程度は予測できるかもしれない。では、5年後は?10年後は? 未来は、現在の延長線上にあるとは限らない。どこかで、非連続な変化が生まれる。それでも、非連続な変化は何もないところからやってくるのではないと考える。そこには、必ず何らかの兆しがある。サイバースペースという単語を1983年に提示したアメリカのSF作家、ウィリアム・ギブスンは、「未来はすでにここにある。ただ均等に広がっていないだけだ」という言葉を残している。 この、「均等には広がってはいないがここにある未来の兆し」の情報を拾い集め、アイデアを発想し、未来の社会の変化、人々の価値観の変化を描いたものが、このウェブサイトでご覧いただいている「デジタル社会の未来シナリオ」である。この未来シナリオでは、「起こるか起こらないかわからないが起こったらインパクトのある」不確実な未来の姿を描いている。 ここで提示しているそれぞれの未来が実現するかどうかはわからない。一方で未来の姿は、自分たちがどこへ向かおうとしているのかの羅針盤になる。それも、現在の社会の姿との距離感が大きい、飛びがあればあるほど、変革の原動力になる。 未来を共に考えるコミュニティを 不確実な時代だからこそ、私たちには先見性が求められる。日本総研では、未来を共に考えるコミュニティの組成を進めている。一緒に未来の兆しを探し、未来の姿を考え、社会への実装に向けて動き出す仲間を募集している。ご興味をお持ちの企業の方は、ぜひお問い合わせをいただきたい。
個人のニッチな欲望が経済圏を形成する
デジタルファブリケーションやクラウドファンディング、P2P(Peer to Peer)プラットフォームが広がると、ニッチな個人の興味・関心・欲望がニッチな層の支持・支援を受け、狭い範囲での経済圏を形成するようになる。
不作為による諍いが起きなくなる
インターネットによる個人の意見が社会に及ぼす影響力及び頻度が高まり、同時に企業や行政のコンプライアンス強化が進んだ結果、企業や行政の行動や意思決定は日々民衆の声に基づいて自律的に追及されるようになる。