デジタルガバナンス・コード起点の変革
民間企業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)を促し、投資家に対して各企業のDX取り組み進捗度を開示するため、デジタルガバナンス・コードを策定する方針が経済産業省より公表(*1)された。2020年・21年は、デジタルガバナンス・コードに対応した企業・組織運営が実現できているかを自己評価し、デジタル社会において持続的かつ競争力のある成長を実現するための重要なタイミングとなる。
2020年台はデータ/デジタルの10年
5Gの本格展開や情報銀行の開始、自動運転サービス等、データ/デジタル技術を活用したサービスの社会実装が進んでいる。また一方、わが国は、開発から21年以上の時間が経過した基幹系システムが6割を超え、IT人材不足43万人に達するとされる、いわゆる「2025年の崖」を迎えようとしている。この10年は、ビジネス変革とシステム刷新の同時進行が必要な時代となっている。
2019年末には、企業が目指すべきデジタルガバナンスのあるべき姿を示し、達成状況を可視化したものであるデジタルガバナンス・コードを策定することが公表された。
また、20年2月4日、旧来から経済産業省・東京証券取引所が共同で実施していた「攻めのIT経営銘柄」を改訂し、DXに焦点を当てた「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」として選定を行うことも公表されている。
デジタルガバナンス・コードの構造
現在検討されているデジタルガバナンス・コードは、5つの行動原則から構成されている。これらの原則のもと、現在、経済産業省「Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会」において、デジタルガバナンス・コードに基づく優良企業選定の方向性、認定制度運用の方向性、行動・対話の促進策(リファレンスの整備・人材・ステークホルダー向けの対策等)、デジタル化が進んだ社会におけるコーポレートガバナンスの将来像等の議論が進められている。
行動原則(デジタルガバナンス・コード)
デジタルガバナンス・コードの構造
行動原則の1つ目には、「成長に向けたビジョンの構築と共有」が取り上げられている。これは、「経営者が明確なビジョンがないのに、部下に丸投げして考えさせている(「AI を使って何かやれ」)」「デジタル化された自社・事業の絵姿を描き切れない(描こうとしない)まま、技術活用を先行させようとしている」等の問題意識に起因するものだ。
ビジョン・戦略がないままにデジタル技術を活用しようとし、PoC(概念実証)を繰り返すものの検証項目が明確ではないため、なかなか事業化に至らない事例は多い。
“OVATE”モデルで企業・組織に変革を
デジタル・トランスフォーメーション(変革)を実現していくには、変化に対応するための指針となるビジョン・戦略の構築は不可欠だ。一方、自社なりの未来の社会・経営環境の見立てがないままにビジョンを策定しても、これまでと変わらない、過去の延長線上のビジョン・戦略になってしまうか、「誰もが幸せな生活を」といった、具体的に何をしてよいかイメージしづらい理念的なビジョンとなってしまう。
未来志向で実行性のあるビジョンを策定するには、観察に基づいて未来の経営環境を見立てることがまず重要である。そうして策定された自社なりのビジョンを基に、顧客やステークホルダーとの関係性を再設計し、デジタル技術を活用しながらビジネスを実行していくことが求められる。
日本総研では、この一連のプロセスを「OVATEモデル」として体系化し、各フェーズにおいて企業・組織に真に必要な支援を実施している。デジタルガバナンス・コードで求められているからデジタル対応のビジョン・戦略を策定する、のではなく、まずは未来の兆しを発見し、自社なりの未来社会の絵姿を見立てるところからはじめていただきたいと強く考える。
*1:「デジタルガバナンス・コードに向けた検討」デジタルガバナンス・コードに関する有識者検討会(2019年9月)(PDF)
*2:Society5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会(経済産業省)