デジタル格差が教育格差につながる可能性
今回は、「子供の教育」に対する結果を紹介する。
学校のICT環境 児童1人1端末へ
2019年12月に政府が閣議決定した「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」には、GIGAスクール*1構想の実現に向けて、学校のICT環境整備が盛り込まれた。施策の中には、令和5年度までに「小中学生の児童1人につきPC端末1台を配備」という内容も含まれる。現在の学校のICT環境は自治体によって大きく異なり、教育用PCの普及率を見ると、最も整備が進む佐賀県の約2人で1台に対して、愛知県は約8人に1台という状況だ。
(出所)文部科学省 「平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」を基に日本総研作成
親のセグメント別*2 子供のICT環境
政府は“教育×デジタル”の地域格差をなくすべく今回の経済政策を決定したわけだが、今回のデジタル生活者調査によると、地域差だけでなく、親のデジタル感度によって、家庭における子供のICT環境が異なることがわかった。
親の消費者セグメント別に、「子供へのタブレット端末の買い与え/承認状況」を見ると、「買い与えない/承認しない」という趣旨の回答が、先進層ほど低く、非先進層ほど高い。30代の親に絞っても、50代の親に絞っても、同様の傾向となり、各セグメントの年代構成が影響しているわけではなさそうだ。親の年代に関わらず、イノベーターの子供は自宅でタブレットにより親しむ環境があり、アナログやフォロワーはその割合が低いことが推測される。
次に、政府が近年その必要性を示しているSTEAM教育*3の取り組みの一つとされるプログラミング教育について見てみたい。イノベーターの約40%が小学校低学年の子供にプログラミング教育を受ける機会を与えていることがわかった。一方、非先進層では10%未満に留まり、習い事の選択肢として挙がっていない可能性が高い。
「買い与えなかった・承認しなかった/買い与えるつもりはない・承認するつもりはない」全体
「プログラミング教育(アプリ、商品、教室など)」月に1回以上
デジタル格差が教育格差につながる可能性
2020年度から施行される新学習指導要領では、プログラミングが必修となる。前段で述べたように、本調査の結果、現状、イノベーターの子供は、タブレットの操作により慣れており、また、プログラミング的思考を学ぶ機会が多い。つまり、プログラミング教育で一歩リードしているといえそうだ。経済格差が教育格差に関係するといわれて久しいが、内閣府が目指すべき社会として提唱した、Society 5.0 *4に向けてSTEAM教育が推進されていくと、今後は経済格差に加えて、親のデジタル格差も教育格差につながるかもしれない。
*1:GIGAとは Global and Innovation Gateway for Allを意味する。2019年12月、文部科学大臣を本部長とする「GIGAスクール実現推進本部」が設置されている。
*2:デジタル製品・サービスに対する意識・行動の相違をベースに、生活者のデジタル化に関する7つの価値観(因子)を抽出し、クラスタリングを実施することで導出。
*3:経済産業省は、「科学(Science)、技術(Technology)、工学(Engineering)、リベラルアーツ・教養(Arts)、数学(Mathematics)を活用した文理融合の課題解決型教育」としている。
*4:内閣府は、「サイバー空間(仮想空間)とフィジカル空間(現実空間)を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会(Society)」としている。第5期科学技術基本計画において、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)に続く、目指すべき新たな社会として提唱された。
デジタル生活者調査
調査手法:インターネット調査
調査対象:20-69歳の携帯電話ユーザー10,000人
デジタル・イノベーター 645人、デジタル・アダプター 2,218人、コンビニライフ2,162人、
デジタル・フォロワー 2,466人、アナログライフ887人、無頓着1,022人、
生活者セグメントの分析対象外 600人
調査期間:2019年8月2日(金)~8月6日(火)
出所
- 文部科学省 「平成30年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果」
- 内閣府「安心と成長の未来を拓く総合経済対策 <施策例>」(令和元年12月5日)
- 文部科学省「GIGAスクール実現 推進本部の設置 について」(令和元年12月19日)
- 文部科学省 Society 5.0 に向けた人材育成に係る大臣懇談会 新たな時代を豊かに生きる力の育成に関する省内タスクフォース「Society 5.0 に向けた人材育成~ 社会が変わる、学びが変わる ~」(平成30 年6 月5 日)
- 内閣府「第5期科学技術基本計画」