地に足のついた自治体スマートシティづくり②
前編では、自治体主導のスマートシティの持続可能性を確保する方向性として、新規投資を伴う施策とコスト削減を図る施策をバランスよく実施する都市経営的な視点を持つとともに、スマートシティに係る上位計画を策定することで実行性を備える、“地に足のついたスマートシティづくり”が必要であるとの考えを述べた。
筆者はこうした考えの下、自治体におけるスマートシティの取り組み状況や、取り組みにあたっての課題等を広く把握することを目的に、都道府県、特別区および人口10万人以上の自治体を対象にアンケート調査を実施した。
1.スマートシティの推進にあたっては自治体の関与・主導が不可欠
本調査において、スマートシティサービス・施策の実装・実証を行っている自治体は20.3%、実装・実証を計画している自治体は15.4%であった。したがって、両者を合わせて35.7%の自治体が、現在スマートシティに関する何らかの取り組みを実施している。
スマートシティに関する取り組みを始めたきっかけは「首長等のトップダウン」が52.9%と最も多く、次いで「民間事業者からの提案」が33.3%であった。すなわち、庁内のボトムアップではなく、トップや庁外からの働きかけを取り組みのきっかけとする自治体が多い。
取り組みの推進主体は「地域協議会(自治体および企業により構成)」が最多で、全体の49.0%を占めた。次いで、「自治体」が27.5%に上った。両者を合計すると、76.5%の自治体で自治体自身が推進主体に関与しており、スマートシティの取り組みの推進にあたっては、自治体の関与・主導が不可欠といえる。
以上より、スマートシティの取り組みは首長や庁外からの働きかけを端緒とすることが多いものの、推進段階では自治体が積極的に主導しなければならないという、ある種のジレンマが存在していることが読み取れる。
2.自治体がスマートシティに期待する効果として「効率化・コスト削減」は劣後
スマートシティサービス・施策の実装・実証を行っている、もしくは計画している自治体がスマートシティの取り組みに期待する効果は、「住民サービスの高度化」との回答が84.3%で最多となり、「高付加価値サービスの創出」が80.4%でそれに続いた。「自治体業務の効率化・コスト削減」(64.7%)は上位2つに比べ、自治体が期待する効果としては劣後する結果となった。
この結果について、前編で提示した4つの類型に当てはめて考えてみたい。
類型Ⅰ:既存の行政サービスを向上させることで満足度を高める施策 類型Ⅱ:切迫度は低いものの、地域の魅力向上のために投資的に取り組む施策 類型Ⅲ:有効な解決策がなかった重要な課題に対して、先進技術を活用して課題解決を図る施策 類型Ⅳ:先進技術の活用により取り組み効果の向上やコスト削減等を図り、既存の取り組みを改善する施策 |
最も上位となった「住民サービスの高度化」は類型Ⅰに該当する。次に多かった「高付加価値サービスの創出」は類型Ⅱおよび類型Ⅲに当てはまる。そして、下位となった「自治体業務の効率化・コスト削減」は類型Ⅳと合致する。
前編では、新規の取り組みとなる類型Ⅱや類型Ⅲだけでなく、既存の行政施策の代替の取り組みとなる類型Ⅰや類型Ⅳもバランスよく実施すべきと論じた。本調査の結果からは、類型Ⅰ~Ⅲについては自治体が重点を置いているものの、自治体業務の効率化やコスト削減に資する取り組みである類型Ⅳについては相対的に重視されていないことが読み取れる。
3.検討予算の確保や庁内体制の構築のためには上位計画の策定が必要
ここまでスマートシティに関する何らかの取り組みを実施している自治体の状況を把握したが、そもそもスマートシティの取り組み自体に着手するにあたって課題を抱える自治体も多い。本調査に回答した自治体のうち実に86.0%が、「スマートシティの取り組みに着手するにあたって課題がある」と回答している。
着手にあたっての具体的な課題としては、「検討予算の確保」との回答が平均3.67点(5点満点)で最も多く、「庁内体制の構築」が平均3.63点でそれに続いた。
課題解決のために必要な要素については、「検討予算の確保」に対しては「国からの調査費用に係る支援」を挙げる自治体が82.4%、「庁内体制の構築」に対しては「庁内におけるスマートシティに関する理解」を挙げる自治体が85.8%で、それぞれ最多の回答であった。また、課題の解決策としてスマートシティに関する上位計画策定を必要とする回答が、全体の42.3%を占めた。
この結果を踏まえると、スマートシティの取り組みに着手するためには、まず上位計画を定めた上で、自治体としての取り組みの位置付けや取り組み方針を明確化することが望ましいといえる。上位計画の策定によって庁内の理解を図ることで、予算確保や庁内体制の構築を円滑に進めることが可能になると考えられる。
とりわけ、既存の行政施策の代替となる類型Ⅰや類型Ⅳの取り組みを推進していくにあたっては、既存施策の所管課からの協力を得ることが不可欠となる。その際に、上位計画の存在は庁内理解を得るための重要な材料となるだろう。
ただし、そもそも上位計画検討にあたっての予算が不足している可能性もあり、その場合には国からの調査費用に係る支援等も必要となりうる。
4.施策の検討にあたっての課題は「費用負担」
スマートシティで取り組む具体的な施策の検討を進めるにあたっての課題としては、「先端的取り組みの実装に伴う整備費用や維持管理運用費用の負担」との回答が最も多く、82.5%に上った。以下、「課題解決に資するスマートシティ施策の検討・選定」(69.9%)、「施策の適切な効果把握」(62.9%)等が続いた。
以上のように、実装に伴う費用負担については大多数の自治体が課題意識を持っている。特に類型Ⅱや類型Ⅲのように新たな投資が必要となる取り組みでは、誰がその投資を負担するかが大きな課題となると考えられる。この課題を和らげる意味でも、新規投資を伴う取り組みだけでなく、既存施策のコスト削減につながる可能性のある類型Ⅰや類型Ⅳのような取り組みにも力を入れる必要があるといえる。
また、類型にかかわらず、税金を原資として自治体が費用を負担する場合には、その施策が地域の課題解決にもたらす効果を明確に説明することが不可欠となる。しかしながら、課題解決に資する施策の検討や、施策の効果把握に課題を感じている自治体が多く、「課題→施策→効果」を適切に結び付けるストーリーづくりをできていないことが推察される。こうしたことからも、まず上位計画を策定した上で、そもそもどのような課題を解決することを目的にスマートシティに取り組むのか、さらにはスマートシティの取り組みを通してどのような効果を期待するのかを明確化することが望ましいといえるだろう。 本編では、自治体アンケート結果を基に、スマートシティの取り組みの推進にあたっては上位計画の策定が求められることを明らかにした。次編では「地に足のついた自治体スマートシティづくり」の推進に必要となるスマートシティに係る上位計画のあり方について検討してみたい。
スマートシティ分野では、自治体・企業の戦略・実行計画策定、実証事業におけるプロジェクトマネジメントを支援。
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